研究内容
対称性の技法とミクロな応答計算を組み合わせ、秩序化がうみだす物性現象に挑みます。
物性物理の一分野である凝縮系物理においては多数の原子からなるモノを相手取ることとなり、 その理論的解明は非常にチャレンジングです。我々は対称性の技法と応答のミクロな計算を組み合わせることで、これに挑戦しています。 具体的なテーマを以下に示します(クリックで詳細が開きます)。 学生の方に向けた研究紹介は こちら(ELMS アカウントが必要)。
研究テーマ
量子秩序が絡む光学的性質の解明


完全な導電性と反磁性を併せ持つ量子相、超伝導は物性物理分野における一大トピックです。
超伝導相に特有なクーパー対の凝縮は直流応答のみならず光学応答においても特異な応答をもたらします。
とりわけ注目を集めるのが高調波発生や光整流応答といった非相反光学応答です。
我々は超伝導体のミクロ理論に立脚し、非相反な対称性の破れを持つ超伝導体における特異な非線形光学現象を予言しました。
このメカニズムは準粒子の生成を必要とせず低周波極限で発散的な応答を示し、低散逸な非線形光学素子の創成が見込まれます。
量子幾何とも強く相関し、超伝導のトポロジカル転移の解明などにも応用できます。
関連論文:
PRB(2022),
PRB Letter(2022),
PRB(2023),
PRB(2024).
スピン自由度を活用するスピントロニクス分野では、スピンを用いた電荷輸送現象が一つのキーワードです。
特にスピンが原子スケールで互い違いに配位した反強磁性体では、その高速なダイナミクスを活かしてテラヘルツ帯の周波数変換や次世代コンピューティングを狙えます。
私たちは磁性により反転対称性が破れる奇パリティ反強磁性体に着目しました。
この系では電場・電流と磁性の揺らぎ(マグノン)が強くカップルし、電場で誘起された揺らぎが創発的な場として作用して整流効果などの光学応答を増強・変調することを示しました。
関連論文:
PRB(2024),
PRB(2024),
PRB(2025),
PRL(2026).
役立つ反強磁性体の開拓


私たちは磁性がもたらす反転対称性の破れ(磁気的パリティ破れ, magnetic parity violation)がもたらす物性、 特に伝導性と相関した物性にいち早く着目して理論研究を進めてきました。 ご興味のある方はレビュー論文(オープンアクセス)もご覧ください。
原子レベルの「磁石」が互い違いに並んだ反強磁性体は磁気を帯びておらず、その秩序を確かめるのは容易ではありません。
しかし原子配列と磁気秩序がうまくカップルすると電気磁気効果など様々な応答が現れます。
私たちは電磁気多極子と表現論の手法を組み合わせ、マクロな電磁気異方性を体系的に分類しました。
これにより強的秩序だけでなく反強秩序が創発するマクロな対称性の破れを統一的に扱えます。
特に空間反転対称を破る奇パリティ多極子が発現すると、実空間の異方性とは対照的な波数空間の非対称構造が現れます。
磁気秩序で反転対称が破れる系(奇パリティ磁気多極子系)では時空間反転($\mathcal{PT}$)対称性が保たれ、
この時間反転/時空間反転対称性の双対関係が物性開拓に有用であることを一連の研究で示しました。
関連論文:
PRB(2017),
PRB(2018),
PRB Letter(2018).
強誘電体のような反転対称性の破れた物質は電気と弾性が線形に相関する応答(圧電応答)を示し、身の回りのデバイスに応用されています。
私たちはそのような交差相関が磁性によって発現することを見出しました。
この応答は磁気的パリティ破れに駆動されるため、構造の非対称ではなく電子のバンド構造の非対称に起因し、結合するのは電場ではなく電流です。
ミクロな解析から磁気圧電応答(magnetopiezoelectric response)を予言し、まもなく塩見研究室(東大)による実証実験が理論とよく整合しました。
関連論文:
PRB(2017)
(実験:
PRL(2019),
PRB(2019),
SciRep(2020))
最近の物性物理ではスピンを活用する動きが盛んで、電子の軌道運動とスピンを結ぶスピン軌道相互作用が重要とされます。
一方、スピン軌道相互作用を仮定しない場合の対称性を問うスピン空間群が Brinkman・Elliott により提唱され、
近年は多極子や altermagnet と呼ばれる磁性体を舞台に広い電子物性の文脈で研究が爆発的に進んでいます。
私たちはスピン軌道相互作用を必要としない磁性体中の創発物性を解明する対称性の枠組みを提案しました。
スピン結晶群(spin crystallographic group)を活用すると、スピン・運動量結合や電場–スピン流結合、トポロジカルホール効果などを
対称性の解析だけから深掘りでき、Fe や Mn などスピン軌道結合の小さい元素を活かした応用も期待されます。
関連論文:
PRB(2024),
Acta Cryst. A(2024),
解説記事(2025),
PRL(2025),
Review(2025).
隠れた秩序の見える化


ある種の反強磁性体では磁気的パリティ破れが生じ、その時空間反転対称性のために磁化や非対称なイオン変位を示しません
(参考:「役立つ反強磁性体の開拓」)。
この「対称性のよさ」は制御・活用の観点では不便でもあります。
私たちはこのような時空間反転対称な磁性状態を可視化する手立てとして非相反な電気応答を提案しました。
奇パリティ磁気多極子秩序は非対称な電子バンド構造をつくり、これを利用すると(光)ダイオード的応答が実現します。
整流方向が反強磁性秩序の「向き」に依存するため、非相反電流から秩序状態を読み取れます。
関連論文:
PRR(2020),
PRX(2021),
PRB(2021).
強磁性・強誘電を特徴づけるのは磁化・電気分極というベクトル量です。
ここでは電気トロイダルの一様秩序である軸性秩序(ferroaxial order)に着目します。
軸性秩序は空間反転も時間反転も破らない「対称性の良いベクトル秩序」で、従来手法では可視化が困難でした。
しかしラマン円偏光活性(Raman optical activity)が有効であることが分かってきました。
私たちは東京科学大学・東京大学の実験グループと協力してこの新奇なラマン円偏光活性を解明し、
軸性秩序下の電子系が持つ「回転に関する向き付け」が縮退フォノンモードの回転自由度と選択的に結合することを示しました。
さらに軸性多極子がもたらすラマン円偏光活性も予言しています。
関連論文:
PRB(2025),
PRL(2026),
PRL(2026),
arXiv(2026).
論文・出版物の一覧は Activity に掲載しています。